Column

心地いい風を感じて

休みになると、バイクに跨って気ままにツーリングに繰り出す。
なんて話をすると、昔はやんちゃしてたんですね、とよく言われる。
だが、そんな事実はない。
バイク好き=ワルだった、という図式が誰にでも当てはまると思っている人は多い。
思い込みとはそういうものだ。
けれど、ワルとは無縁な学生時代を過ごし、大人になってからバイクにハマるヤツも少なくない。
自分もそのひとり。
新入社員の時に指導係をしてくれた先輩がバイク乗りで、その人からバイクの魅力を教わった。
全身で浴びる風が、ストレートに伝わってくる振動が心地いいのだ、と。
その熱量に圧倒されたのを覚えている。
先輩のバイクにタンデムさせてもらった時、なるほどと思った。
先輩の言葉の意味を、全身で感じ取れたからだ。
そして、そのままバイクにハマっていった。

最初のバイクは、ちょっと背伸びをして、カワサキのNinja。
見た目のカッコよさと、250ccとは思えないスペックと装備に裏打ちされた走りにすっかり惚れ込んでしまった。
まあ、先輩からオススメされたのも大きい。
自分の相棒を手に入れてからは、ますますバイクにのめり込むようになった。

先輩やその仲間とつるんで走ることが多かったツーリングも、次第にひとりで出かけることが増えていった。
元々、人と接することがあまり得意な方ではない。
ゆえに仕事もひとりでコツコツできるエンジニア系。
多くの人と過ごすことにストレスを感じてしまうタイプなのだ。
それに、先輩が結婚を期に、バイクよりも家庭優先となった。
当然の話だ。
行動をともにする機会が減り、そうしたタイミングが重なって、ひとりツーリングになっていったのだ。

何年経ってもバイク熱は冷めやらず、整備なども自分でちょこちょこするようになり、ガレージが欲しくなったのは30代に入った頃。
小さいながらも一軒家に引っ越したのは、ひとえにバイクのためだった。
そんなバイクひとすじの男に恋人も、ましてや嫁などができるはずもなく、けれど、それを寂しいと思うこともなく、歳を重ねていった。

いよいよアラフィフに突入し、ある時、会社からリフレッシュ休暇を取ったらどうか、と薦められた。
長年勤めたご褒美だと言う。
ちょうど大きなプロジェクトも一段落してタイミングも良かった。
しかも、我が社は太っ腹で、最大で3ヵ月までの休暇が取れるのだ。
ならば、と思いきって3ヶ月の休暇を申請した。
何をするか?
もちろん、ツーリングだ。
せっかくの長期休暇。
バイクで日本をぐるりと一周してみようと思いついた。

コンパクトに纏めた着替えだけを持って、まずは北へ向かう。
今は、秋がすぐそこまでやってきている夏の終わり。
雪がちらつく前に、北海道や東北を攻略しておく必要がある。
そこから、観光をしながら気ままに南下して、最終地の沖縄に渡る頃には冬はもう目前だろう。

思いがけず訪れた人生の夏休み。
今、相棒のバイクとともに過ごす旅路を、心から楽しんでいる。
美しい風景を、心地いい風を、爽やかな空気を、全身で感じながら。

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